島めぐり風だより Vol.19(2012.10.24)
『失敗がなければ成功はない』
10月も半ばが過ぎ朝晩ストーブに火を点けることが多くなり、フェリーの欠航も相次いだ。日本海には雪が下から吹き上がるイメージがあり、てっきり強風が吹き荒れるのは厳冬期かと思いきや、データをみると一番欠航が多いのは11月である。過去5年で実に47回欠航している。およそ3日に1度は欠航している勘定だ。島の人によると、冬型の気圧配置が安定する間近の海は荒れるそうだ。にわかにきびしい冬の準備が進んでいる。
そんな中、本校教諭の愛車が雨の日も風の日も島を走っている。車体に大きく「ナマコハンドクリーム」と描いてある。曰く生徒が考えた広報車だという。後日可愛いナマコの絵も描き加えられ、白い車体に描かれた文字と絵はいやがうえにも目立つ。
昭和20年代には北海道には水産科を持つ高校は13校あった。しかし少子化で学校統廃合や漁業後継者の減少により現在は3校だけになってしまった。海面漁業・養殖業の生産量および生産額で全国第1位の北海道であるだけに残念である。水産高校で学んでいる生徒たちが、日頃の学習や研究の成果を発表する場として今年で33年の歴史をもつのが「水産クラブ研究発表会」である。例年、環境や省資源、省エネルギー、地域振興などの調査・研究、作品製作などが発表される。生徒全員が水産実習や漁業基礎を学ぶ本校も、以前からこの発表会に参加している。今年度は、来月函館で開催される。
本校の発表は「ナマコハンドクリーム~ご島地限定コスメ~」である。ご当地が、ご島地となっているのがミソだ。理科実験室の黒板を覗いてみると、PDCAサイクルに則りびっしりと板書が書かれている。クリーム作りとパッケージの表にPでは、土産としてナマコを活用、分かりやすく可愛いパッケージ、Dではナマコエキス入りのハンドクリーム作製、容器にデザインしたシールを貼る、Cでは島内外サンプルアンケート、対照実験と観察、Aでは評価、改良など。計画、実行、評価、改善が見事に計画されている。そして端っこにPRは、IP電話・ポスター・広報車と書いてある。
ノーベル医学生理学賞を受賞した京都大学の山中伸弥教授が、実験の多くは失敗に終わる。「だからやらない」ではなく「もしかしたら成功するかも」と考えることが大切といっていた。本校でも最初ナマコを天日干したら見事に溶けてしまい失敗に終わったという。おりしも漁組では天売、焼尻島沖の武蔵堆で漁獲される小型クロマグロのブランド化を目指し「ムサシのメジマグロ」を売り出した。ナマコハンドクリームが、天売漁業の発展や来島した観光客に貢献することも夢ではない。私も使用しているが、ナマコのぷるぷる感が手に馴染む。ちなみに香りは、ナマコではなくローズである。あしからず。