島めぐり風だよりvol.11 of 北海道天売高等学校

北海道天売高等学校 定時制普通科

島めぐり風だより Vol.11 (2012.3.7)

『春遠からじ』

 2月に入り、校舎に張り出している玄関入口の屋根が雪の重みで押され、本校舎との間に隙間が拡がってくる。某日ぎしぎしと不気味な音がするとの情報が入る。万一を考え、その日からすぐに玄関は使用禁止とする。島の方や保護者の方たちも屋根の雪下ろしを手伝ってくれ、当面の危機は回避。その後も休日に職員総出で雪下ろしをするなど予断を許さない。構造上雪が落ちにくい校舎や10数年振りの降雪とはいえ、屋根の雪下ろしをもっと頻繁に行う必要があったと猛省する。島外から大工がやって来て、玄関使用できるようになったのが卒業式の前々日。その間駐在さんが、黄色地に黒で書かれた立ち入り禁止のテープを張ってくれたり、町教委が緊急予算を組み支援してくれた。PTAや地域からも何かあったら手伝うから遠慮なく声をかけてくれとの言葉をいただく。「経験や知識の不足を補うのは周りからの援助であり、何事も誰かが声をあげ波紋が拡がればほとんどの事件・事故は未然に防げます」と、いみじくも駐在さんが語った言葉が強く印象に残った。

 今年の冬は雪量もさることながら、気温も低く歩くと片栗粉のように細かい粒子の雪が、キュッキュッと耳障りの好い音を発する。小学生のころ通学時によく聞いたが、大人になって雑踏の中では、信号機や車のエンジン音に紛れ久しく気にも止めなかった。車で通勤していればなおのこと聞かないだろう。歩いて通勤していればこその音だ。北海道大学低温科学研究所の前野紀一氏は鳴き雪と名付け研究している。英語ではスインギング・スノウと訳すそうだから何とも楽しいではないか。環境省の日本の音風景100選にはないものの、道産子なら記憶に刻まれている音風景だ。そんな冬もようやく緩んできた。

 校長室の窓から前浜が見える。日差しが柔らかくなり海がキラキラと輝き、春がそう遠くないことを期待させる。晴れた夕暮れの山際に日が沈むときに、初秋からとんと姿を見せなくなったカモメが島に戻ってきていた。その数およそ500羽以上。蚊柱ならぬ鴎柱が立ち、カモメが上昇気流に乗って気持ち良さそうに旋回する。快晴の青空に白がまばゆく映える。見ようによっては兵庫県の西宮神社で、若者が一番福を目指し開門と同時に走るのと似て、われ先にと競いながら飛んでいるようにも思え愉快である。後日港に行ってみると、いるわいるわで驚く。いつの間にこんなに戻ってきたのだろう。

 家庭学習に入っていた3年生が久しぶりに登校した。今年度最後の生徒会行事「予餞会」の主役である。この日のために執行部を切り盛りしている生徒会長は万全の準備してくれ、一人で何役もこなす。まずはシェフ。食事会からスタートする予餞会は、何枚ものお好み焼きを作り高く重ねて、卒業生と担任のケーキ入刀で盛り上がる。次は司会者。ゲームやクイズを中心にレクリエーションで盛り上げる。そしてプロデューサー。この企画を練り制作活動の準備や管理、生徒会顧問の協力を得て、制作全体を統括していた。休憩時間に担当の先生と小声で話しているのが耳に入る「泣くかな」と。BGMを行事の写真に合わせスライドショーが流れる。転勤した恩師からはビデオレターが届く。ほぼ時間どおりに終わり、タイムキーパー役も完璧だ。送り出す上級生の喜びを、自分の喜びとして感じることが出来る感性がみずみずしい。

 卒業式の朝はみぞれであった。あいにくの強風で出漁することが出来ず、関係者の方々には申し訳ないが、そのおかげで来賓はじめ多数の方々が学校に足を運んでくださった。卒業生のご両親も揃って出席してくれる。学校に来るときは疲れた顔をしている先輩を案じながらも、登校後の笑顔があったからこそ全校生徒2人の状況を乗り越えてこれたと送辞が読まれ、苦手なことも避けられない辛さを述べながらも、挑戦することで不安を自信に変えてきた心情を答辞で話す卒業生。だれもが祝福を惜しまない温かい式となった。

IMG_1666.JPG島の方が高所作業車で駆けつけてくれました。IMG_2895.JPG玄関の補強工事IMG_2883.JPGたくさんのカモメIMG_1497.JPG予餞会にてIMG_2570.JPG卒業証書授与式DSC_6078.JPG答辞を読む卒業生IMG_2797.JPG補強工事を終え無事に玄関前で記念撮影が出来ました。

※写真は一部加工を施しています。

オロロン日誌

海にカモメ、林に野鳥が少しずつ渡って来るようになりました。道路で雪割りする人の姿も見かけるようになりました。

かんじきがないので雪が締まり、ツボ足で歩けるようになるのが楽しみです。

IMG_2850.JPG冬のカモメIMG_2826.JPGカモメと幼鳥IMG_2889.JPG校舎裏の林