島めぐり風だよりvol.9 of 北海道天売高等学校

北海道天売高等学校 定時制普通科

島めぐり風だより Vol.9 (2011.12.1)

『ウサギ走る』

 日が短くなり、生徒が登校するころにはとっぷりと日が暮れ始める。校門で出迎える教員が、生徒の顔を真近に来るまで判別できない季節となった。まさに「誰そ彼」とたずねる意からできたというたそがれどきだ。
 天売は生態系が独特である。えさ不足で札幌の市街地まで出没し話題になったヒグマも、過繁殖が取り沙汰されているエゾシカも、エキノコックスで厄介者呼ばわりされるキタキツネもいない。タイトルにある「ウサギ走る」ということばを聞いたとき、天敵のキツネがいないからウサギはいるんだなと思ったものだ。どっこい天売のうさぎは、海にいる。それも穏やかな日には人前にあらわれない。風の強い日にでてくる。果たしてそのウサギとは?なぞなぞみたいだが、わかっただろうか。そう、波のことなのだ。漁師たちは鉛色した日本海に、出ては消える白波をウサギに見立てている。荒れた海にウサギが元気よく跳ねるのを横目で見ながら、通勤する日が多くなった。

 過日体験入学で地元中学校の2・3年生が来校し、高校生活の一端に触れた。昨年度は中学校の卒業生がおらず新入生がいなかった。来年こそはと教務部を中心に天売高校を知ってもらうため計画を立てる。生徒会長は、先月改選されたばかりで挨拶は苦手なはず。どんなことを話すのだろうと聞いていると、ユーモアたっぷりに「入学おめでとう」とかましてくれる。緊張していた中学生もニヤリ。一気に場が和む。
 地元の中学生が地元の高校に通わず、募集停止になった各地の例を知っているからこそ、飾らずそして自信を持って教職員と生徒が一丸となり自慢の天売高校をアピールした。本年度は初めて中学生の保護者にも来校案内をしたところ、興味をもってくれ足を運んでくれた。高校の授業を親御さんに参観してもらい、帰りには校長室に寄っていただき、私も直接お話しする機会を得た。
 生徒・引率教員そして保護者から提出された事後アンケートを見ると「小さな学校のメリット・デメリットが理解できた」と教務主任の大規模校との比較説明や、「授業の内容は難しかったが、わかりやすかった」など難しい倫理や数学に興味を持って体験授業を受けた感想が、好評であったことに胸をなで下ろす。しかしひとえに平素から本校教職員が、小中学校や地域の方々と時間をかけ丁寧に信頼を積み重ねた結果によるところが、何よりも大きいと感謝する。自宅から通える高校があり、生徒が学び将来を夢見る「教育の機会」が保障されることは、健康で文化的な生活に欠くことはできないものだ。

 月めくりのカレンダーもあと1枚となり、気ぜわしさともう今年も終わりかと寂寥感にさいなまれる。テレビでは、環境に配慮したイルミネーションがLED電球で設置されましたとのニュースが流れ、11月上旬にはデパートではもうクリスマスコーナーが設けられていた。赤と緑の色で彩られたきらびやかな商品に気分が高揚する反面、せかされているようでどうも釈然としない。街なかの喧噪とは無縁な島は、いずしを仕込み終えたり、昔ながらの鰊を美味しくする糠が売れたりと年末の準備に余念がない。
 商店でもないのに、生徒が下校する時刻にいつも外灯をつけている家がある。漁師町で朝が早い天売では珍しい。聞くところによると本校の大先輩で、卒業後壮年になってからはPTA会長や同窓会長もされた方のお宅だ。ご自身が天売高校に通っていた頃は、まだ送電には時間制限があった。放課後部活動の途中でも10時になると一斉に消灯し、外灯もない下校時はとても心細かったとのこと。今の生徒たちにそんな思いはさせたくないとの思いで外灯をつけていると聞いたのは、着任してから程なくたったころだ。向かい風厳しい帰り道、どこのイルミネーションよりも心が温められるのは生徒ばかりでない。


IMG_0352.JPG「ウサギ走る」IMG_0343.JPG晴雨表(赤はフェリー欠航)DSCF4370.JPG体験入学DSCF4348.JPG体験入学(中学生)DSCF2792.JPGいずし作りの様子IMG_5560.JPG天売のいずし
※写真は一部加工を施しています。

オロロン日誌

今年度最後の水産実習、サケチップづくりが終了しました。50㎏の鮭をさばき、およそ1週間かけ完成です。今年の出来はいかがでしょう。

水産クラブ研究発表で、「藻場再生プロジェクト」の取り組みが努力賞を受賞しました。

留萠管内教育フェスティバル『出会えー留』で、鮭の解体と石狩鍋のふるまいを行いました。見事な鮭さばきを披露し、美味しい一杯めあてに長い列ができました。

IMG_9304.JPG水産実習サケチップIMG_1175.JPG水産クラブ(小樽)IMG_0070.JPG出会えー留