島めぐり風だより Vol.12 (2012.3.30)
『ありがとう』
弥生3月、別れの季節。人事異動で教頭先生はじめ3名の教職員が島を離れることとなった。離任式には、卒業したばかりのAさんと昨年卒業した生徒たちも参加してくれた。春休みで島に戻った者、時間の都合をつけ仕事明けに駆けつけた者など様々だ。彼等彼女たちは、時間があるといつも必ず学校に顔を出してくれ、近況を報告し、体育の時間にも参加してくれる。現在入学式まで暫定的に1名となった生徒会長と合わせ、6名の生徒が整列し、1年振りに転勤する教職員と向かい合う格好になった。
異動先を紹介した後に、ひとり一人が天売での思い出を語った。3年前連絡船で天売に着任し出会った教師が、時を経て道南、オホーツクそして道東へと旅立ちまた散りじりになっていく。生徒や地域との濃密な日々を過ごした分だけ、成長した子どもたちを前にした最後の挨拶は、こみ上げるものがあった。
教頭先生は、20年以上久しく絵筆を持っていませんでしたが、天高の校舎を油絵で描けたのは、皆さんに褒められたからですと語る。体育のT先生は生徒の前に立つものの、言葉より先に涙が溢れ沈黙が流れた。絞り出すように声を出し、生徒を自宅まで送った帰り道、星空を見上げ放課後帰宅する生徒の寂しさを思い、通い続ける生徒の強さを讃えた。教員採用試験にチャレンジしているS先生は力強く合格への決意を語り、自らも夢の途中にいると生徒を励ました。去る者も残る者も共有した時間の喜びと、別れの悲しみに眼を赤くしていた。
いつもは生意気盛りで辛口をきくこともある生徒会長が、惜別の言葉を綴られた紙片を読む。送る言葉は、ぽつりぽつりと上着の袖で瞼を擦りながら語られた。普段は同世代に話すような言葉遣いしか先生方に使わないのに、この日は違った。
「教頭先生、毎日水産クラブの研究を指導してくれてありがとうございました。T先生、次の学校ではラグビー頑張って下さい。S先生いつも一緒にバンドをやってくれてありがとうございます」と敬語が胸を打つ。鼻の奥がツーンとし目頭が熱くなる。生徒の純粋さゆえに、せつなくも清々しい気持ちになった。
「天売に遊びに来るのを待ってます。今までありがとうございました。」で締めくくられるお礼の言葉は、今まで生徒から聞いたたくさんのありがとうとはひと味もふた味も違って聞こえた。地域があって、生徒がいて、学校がある。そこで教える喜びは、生徒の数に反比例するのかもしれない。島の生徒に接し、また1つ教える側が教わった。