島めぐり風だより Vol.16 (2012.7.24)
『暑い夏』
空気がさわやかな時間に窓を開けると、前浜から吹く風が心地よい。網戸があり虫は入らないが、少しだけ外がぼんやりするのは残念だ。網の目が粗く、糸が細ければもっと景色がすっきり見えるのだろう。でも、それでは網戸の体をなさないなと考えていると思い出すことがあった。
「深川では現在農業後継者が4軒に1軒しかいないのです」と宿泊研修で訪問した会社の社長さん。自分の代から農家を株式会社にしてアイスクリームやヨーグルト、バター、パンを作り販売しているという。
「人生とは幾度となくふるいにかけられるものです」新鮮なアイス作りとバターを作る体験を指導してくれた後に話してくれる。「網の目を細かくして落ちないようにするのが学校の勉強です」と語り、生徒がなるほどと頷いていた。
そこには、このままだと後継者が見つからなければ今より4倍の面積を耕作しなければ立ちゆかない一次産業への危機感があった。TPPがかぜん身近な問題として迫って来る。
6月末の宿泊研修で生徒を引率した。島の玄関口であるフェリー乗り場は、船の発着時になると旅行客や荷下ろし荷積みで賑わう。喧噪の中出発式があり生徒代表が挨拶や決意をのべ乗船。いつもは見送る側であったが、初めて見送られる側となった。「テープがあるといいな」と船上からつぶやくと「それは、転勤で島を離れるときだけだよ」すかさず生徒会長の言葉。なるほどと納得。羽幌ターミナルにつくと町が準備してくれた小型バスに乗り深川を目指す。町立の高校ならではだ。
初日は高等教育学校の見学だった。男子が短期大学、女子は高等看護学院を訪問し将来の進路を考える機会とする。短大には環境農業科があった。「田んぼの水に初めて手をつけ、嫌がらずに楽しんでいましたね」と引率教員の言葉。彼は実家が稲作農家で、農業の魅力を生徒に伝えたいと常々考えている。看護学校では女子が赤ん坊と重さの同じ人形を抱き、笑顔でカメラに納まっていた。
青年の家到着後、スポーツクライミングを体験。10mもある人造ゲレンデは下から見上げると圧巻だった。地元山岳会に所属する方の指導で、生徒は難易度を上げながら幾度となくチャレンジし腕を上げていた。
2日目は全行程マウンテンバイクで移動する。私が体感したこの夏一番の暑さがこの日だ。照り返しもきつく停まると風が来ない。暑い中、乗り慣れない堅いサドルが痛く、長距離を走ることは生徒にとってもさぞ大変だったろう。短大の学祭を見学し、その後移動した先がくだんのアイス作りを体験できる施設だ。
どのような体験なのだろうと楽しみにしていた。そこには新鮮な牛乳に生クリームと砂糖を入れ混ぜる手動のアイスクリーム製造器があった。アルミニウム市況の低迷により一時経営不振に陥った上場企業が立ち直るきっかけになった80年代のヒット商品だ。ひたすらハンドルを回す。暑さと疲れも手伝い、完成した手作りアイスクリームの味にニンマリし顔を見合わせた。古いものほど新しい、ということか。