島めぐり風だより Vol.17 (2012.8.30)
『不器用』
今春就職した大学生の4人に1人が非正規雇用という新聞記事を目にした。やっかいな時代になったものだ。かと思えば人事担当者が受験者のSNSにアクセスし、友人の数をチェックして社交性を見ているという話も聞いた。面接や成績だけでしか判断できなかった採用システムに風穴を空けたそうだ。さらに驚くのは、友人が増えるような好感度を高めるSNSの書き方を指導する専門学校が、就職対策として学生に人気だということだ。いやはや大変な世の中だ。私の出会った生徒たちは、今頃どうしているのだろうと思う。厳しい世の中、ちゃんとやっているのだろうかと、自分のことは棚に上げて考えることがある。この夏休み中、意図せず2人の教え子と再会した。
長距離運転の休憩で立ち寄った店先で偶然会ったI君は、20年ほど前に担任したクラスの生徒。テニス部で日焼けした顔と白い歯をはっきりと覚えている。卒業直前、ある事情で皆勤賞が破れ涙した。地元の消防署に入り、すっかり貫禄がついていた。札幌で開催された息子の剣道大会を応援した帰りとのこと。この時の生徒たちはとても仲が良く、10年毎に地元で同窓会を開いている。次の同窓会には来てよと立ち話を切り上げ、笑顔で別れる。
O君は、釧路で出会った定時制の生徒だった。札幌のデパートでエレベーターに乗り込むと目が合い、7年振りの再会となった。茶を飲み近況を聞き、良く判りましたねと感心される。あんときゃ俺たち無茶苦茶で、先生方に迷惑をかけましたよねと、大人びた話をする。小さな商社に入社し、社長は厳しいが期待されていると教えてくれた。担任の先生とは音信不通とのこと。その場から即私の携帯電話で連絡をし、当時の担任をびっくりさせる。
何を追い求めるかは、個人の問題である。二人とも社会が悪い、環境が悪いと批判したりはせず、また制度にぶら下がろうとも考えていなかった。若さゆえの夢に向かって、あちらこちらにぶつかりながら不器用に生きていた。社会もきちんと彼等を育ててくれた。希望とは自ら探し求めるもので、自分以外の者が与えてくれるものではない。
ロンババとよばれる海水浴に適した入り江で、炊事遠足があった。左には利尻富士、正面には焼尻島が見える絶好のロケーションだ。そこから双眼鏡を覗き正面の焼尻島を見ると、黄色いハンカチが揺れているのが見える。高倉健の主演した『幸せの黄色いハンカチ』が昨年リメイクされTVドラマになり話題となったので、観光客向けとして今夏も掲げている。楽しそうに海に浸かり、屈託のない笑顔の生徒たちを見ていると幸せを感じる。「不器用ですから」とCMで健さんがいっていた時代は遙か昔であるが、常に最短距離で目的を目指すことが最善と考えるような大人には、この子らは育って欲しくない。