2010年8月の日記 of 北海道天売高等学校

北海道天売高等学校 定時制普通科

2010.8「海鳥の聖域を守れ!」

 とある日曜日。天気予報は雨であったが、朝から青空が広がる上天気。なんか得をしたような気がして、「今まで経験したことがない事でもやってみよう」と考えてみた。以前、「天売の海岸線を歩いて一周できるのか?」と生徒に尋ね、「少し、海に入る所があるけど、一周したことがある」との答えを思い出した。思い立ったが吉日。妻と一緒に海岸線踏破にチャレンジした。島には観光用の周回道路がある。その道路をフェリーターミナルから東海岸側沿いに3キロほど進むと人家が途絶える。しばらく平坦な道を進み、登りにさしかかるあたりに、以前は海水浴場だった黒磯海岸がある。道路から海岸に下り、島一番の景勝地である赤岩に向かって歩き始めた。岩場なのでとても歩きづらい。浮き石に足が乗っかり、バランスを崩して転びそうになる。「老いのはじめは足腰から」を痛切に感じながら前へ横へと進む。それほどの距離ではないが、思ったより時間がかかる。約1時間ほど歩くと、陸地側が急峻な崖となる。普段、人間など来る事もないのだろう。予期せぬ闖入者に向かってカモメが鳴き叫ぶ。歓迎?警戒?それとも、威嚇?やや不気味。崖を仰ぎ見ると、岩棚に鳥が止まっている。よくよく見ると、オロロン鳥(ウミガラス)の模型であった。天売島と言えばオロロン鳥。我が国唯一の繁殖地であり、以前は6万羽ともいわれるオロロン鳥が飛来したようだ。しかし、現在は十数羽程度しか確認されていないため、岩棚にデコイと呼ばれるオロロン鳥の模型を置いたり、鳴き声を拡声器で流したりして、繁殖しやすい環境づくりを行っている。その岩棚の一つが赤岩の対崖である。ということは、もう少しで目的地「赤岩」に到達か?段々狭まってくる海岸を急ぎ足で進む・・・が、とうとう大きな壁が立ちはだかり、前へ進めなくなる。海に入るか、それとも崖を登って壁を乗り越えるか?そこは、臆病夫婦ゆえ、あっさりとあきらめて引き返すことにした。
 天売は世界的にも珍しい、人間と海鳥が共生する島。それは、人間が住める地形の区域と人間を寄せ付けない地形の区域がはっきりと区別されている事が大きな理由と言われている。今回その事を、身をもって体験した思いがする。天売海鳥研究室(北大の学生達が夏場に滞在し、海鳥の観察を行っている)の情報誌によると、天売島における海鳥の繁殖は、オロロン鳥だけではなく、ウミウやウトウも減少しているようだ。天売が永遠に人間と海鳥が共生する島であるために、「海鳥の聖域を何としても守り続けなければならない」、との思いを改めて感じた一日であった。次の日、このことを妻が知り合いの島民に話したところ、「以前は観光客が海岸線一周を試みていた。しかし、ある年、岩浜が途切れたところで、崖をよじ登った学生が転落死して以来、この事は行われなくなった」との事・・・夫婦共々、臆病であったことに感謝する。

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