オロロン鳥(ウミガラス) -手塩にかけて- of 北海道天売高等学校

北海道天売高等学校 定時制普通科

第7話 オロロン鳥(ウミガラス) -手塩にかけて-

 赴任前天売島に行くと言ったら、友人から「あのオロロン鳥の?」と言われた。数を減らしている貴重な鳥だとも聞いたが、まさか100羽以下ということはないだろうと思っていた。実際天売に住み込んでみたら、そのまさかよりさらに状況は深刻だった。赴任した2009年生息数15、繁殖ペア数 3、巣立数0。2010年生息数19、繁殖ペア数3、巣立数0。絶対数が少なく、そのうちペアの割合も少ない。ましてや雛が無事成長し巣立った数が0!これでは今まで毎年天売に来ていたこと自体が奇跡ではないか!とても驚いた。
 しかし長年、海鳥研究者や地元の鳥愛好家がねばり強い生態調査を行った。また近年、環境省職員が繁殖期島に常住するようになり、これらのデータをもとに毎年色々な対策を講じた。クライマーを雇いデコイという鳥の模型を危険な岩場に設置したり、また音声装置を要所に置く、さらに繁殖地近辺の捕食者をハンターに排除してもらうなど・・・。長年の努力が実り、2011年は生息数20、繁殖ペア数7の内、ついに巣立数7を確認できた。これを超える巣立ちの記録は、なんと1998年の8羽ぶりである。まさに長い間危険も顧みず、多くの人々の総力を結集してこの鳥を守り勝ち取った成果だ。
 天売の子どもは皆にかわいがられる。行事もあの赤ちゃんが来るから私も行こうということになる。しばし親の手から離れて、いろんな人に抱っこされて、そこで遊んでいるということもよくある。ちょっと上の子どもも兄弟でなくても下の子の面倒をよくみる。すっかり仲良くなって一緒に寝ていることも多々ある。学校では先輩、後輩というよりまさに兄弟のようだ。大人は日常的に子供達に声をかけ続け、成人になっていく姿を優しく見守っていく。数少ない貴重な子供達に真心で接し、手塩にかけ地域全体で育てる。
photo1.jpg<写真1> 現在のオロロン鳥の生息場所〜赤岩対岸の岩穴〜
 天売に来る十数羽のオロロン鳥は一体どういうところに住んでいるのか?実はここ数年はたった一ヶ所の決まった場所で、全て固まって生活している。赤岩という有名な赤い岩の、すぐ隣にある高さ二○メートルの岩穴である。特別保護区であり船でなければ行くことができない。場所といい高さといい、鳥にとって完璧に安全な場所のように思えるが、ここでも味を占めたオオセグロカモメがオロロン鳥の雛を襲い、ここ数年巣立ちに失敗している。今年はハンターに付近の捕食者を排除してもらった結果、極めて安定した繁殖場所となり巣立ちに成功した。ただ、鳥にとっては安全でも、ここにデコイ等を設置する仕事を依頼された人達は大変(写真にある鳥に見えるものは全てデコイ模型)。2014年はカメラも設置するらしく、その下準備で今年また足場作りなどの作業が行われたようだ。仕事とはいえ本当に頭が下がる。


photo2.jpg<写真2> いざ赤岩へ
 オロロン鳥は3〜4月ころ飛来し、8月初旬に島を去る。産卵期は6月で、それまで繁殖場所には早朝または夕方から夜間にかけてしかつかず、日中は海上生活を送る。従って、繁殖場所付近でこの鳥が見られる時間は少ない。しかし、産卵が近づくと昼間でも繁殖場所に見られるようになる。最初は巣のメンテナンスのため、6月後半からは抱卵のため、7月に入ってからは雛にエサを与えるめに海と巣を行き来するからだ。8月に入るあたりで巣立ちが始まる。
 このような生態から、オロロン鳥を見るチャンスは本当に少ない。観光船があった時2度乗ったが見られたためしがない。昨年同僚の先生が3年目の快挙で写真撮影に成功した。しかし撮ったという証拠に必ず、同じ場所で2枚写真を撮らなくてはならない。デコイが本物そっくりで、普通に撮ってもデコイなのかどうかわかならい。周りに比べて明らかに動いて場所が変わっている鳥を確認して、はじめて本物とわかる。ということで、できればビデオで撮りたい。さらに欲を言えばハイスピード撮影で飛翔シーンを撮りたい。感情を押さえきれず、ボートをチャーターしこの鳥の映像を求めて赤岩へ出発した。


<映像1> オロロン鳥発見!(120fps)
 オロロン鳥じゃなくても飛翔シーンのハイスピード撮影は、初めて見る鳥なら5回くらいのチャンスで1回満足な映像が撮れるかどうかという感じです。倍率が高くないので、なるべく近寄って撮りたい。しかし近寄りすぎればすぐ逃げてしまう。その辺の駆け引きは、その鳥の習性を知っているかどうかによって相当結果が違う。オロロン鳥に関して言えば、チャンスは1回あればいい方でしょう。うまく撮れるかどうか…。
 チャーターボートは西海岸を周り赤岩へ到着。巣穴を見てもひっそり静か。何かの動きらしい気配は全く無く、ああ今回もだめかと半分諦め気分。しかし、突如、頭の上をオロロン鳥が飛んでいるという船頭さんの声。見ると我々の頭上をぐるぐる旋回しているオロロン鳥の姿が…。ペンギンが飛んでいるような、初めて見る一生忘れられないオロロン鳥の光景。どうしても飛翔シーンを撮りたかった私は、カメラで追いかけ回すがなかなか追いつけない。途中船頭さんが巣に入ると解説していたが、その声が波の音でよく聞こえなかった。そのうち姿を見失ってしまい、何回か空を廻った後巣に戻ってしまったらしい。ガーン、黙ってずっと巣を狙っていれば良かった!オロロン鳥は巣の高さが高く狭いため、周りを何回か旋回してタイミングを図って巣に戻る。旋回しているということは、そのうち巣に戻るということなのだ。この習性を知っていれば簡単に撮れたのに…。おまけに巣に入ったオロロン鳥は奥に入り、しばらく待っても一向に表に姿を見せてくれない。やはり、チャンスは1回だったか…。泣く泣く退散。
 ボートは次第に赤岩から離れていく。去り際、ふと岩穴の方を振り返ってみたら、なんか巣にバタバタした陰が見えた感じがした。ハッとして再度カメラを回して覗いてみたが、鳥の動きらしいものはなかった。「気のせいか…」深いため息をついてカメラを再生してみた。まだ未練がましく最初に撮った映像と、去り際に撮った映像を見比べると?あれ、なんか変わっている!!ビデオの前半後半を見比べてみて下さい。


<映像2> オロロン鳥 撮ったどお〜(通常撮影)
 船頭さんに事情を話したところ、幸いまだ少し時間があったので、赤岩の岩穴まで引き返してもらいました。オロロン鳥は確かに姿を見せていました。しかも、岩穴に戻るにつれちょっと数が増えて、驚いたことに雛まで出現していたのです!3年目にしてやっとビデオを撮ることができました。 巣に戻ってすぐメンテナンスが必要なのか毛繕いしています。時々警戒して辺りを見回しているようです。雛は親を真似しているのでしょうか?愛くるしい姿をご覧下さい。


<映像3> デジタルズームですが… (通常撮影)
 船は陸にぎりぎりまで近づいてくれましたが、それでも巣までは結構な距離なので、光学20倍までしかないカメラでは大きさに限界があります。デジタルズームで少し大きくしましたが、あまり綺麗ではありません。ただ、拡大しただけあって、多少細かい部分が写っている感じですので揚げさせて頂きます。
 オロロン鳥(正式名ウミガラス)は最盛期40000羽天売島にいたとされる。どうしてこれほど数を減らしてしまったのか?原因は漁業の網にひっかかる、天敵であるオオセグロカモメやハシブトカラスや猫の増加、エサの減少など、様々なことが複合的に絡みあっているようです。いろんな報告書を見る限り、これらはどれも正しい理由のように私にも思われます。しかし、同じ条件でもウトウは数を増やしていることから、生態的に元々弱いということもあるのでしょう。ただ、日本ではこれだけ数を減らしても、サハリンにはわんさかいる無人島があるらしいので、世界的に今すぐ絶滅が危惧される鳥というわけではないようです。


<映像4> これも毛繕い? (240fps)
 240fpsで撮ってみましたが結果的にこの映像については120fpsで撮れば良かったと反省。240fpsでは動きがゆっくり過ぎるのです。飛翔シーンのような素早い動きは240fps、普通の動きをじっくり見たい場合は120fpsがいいように思います。ただ他の鳥では見られなかった、ちょっと変わった毛繕いを発見したので揚げておきます。首を極端に曲げて頭の後ろを背中の羽にこすりつけるのです。毛並みを良くするとか、羽を暖めて水分を飛ばすとかでしょうか?首がある程度長くて、ひょろんとした鳥でないとできないような動きですね。ずんぐりした鳥なら、背中まで頭が回らないでしょう。画面真ん中の鳥は時々声を出して鳴いていました。


<映像5> 赤岩公園でも見られます。 (通常撮影)
 別な日に北大の海鳥研究室の学生さんに赤岩展望台から今オロロン鳥が見えるという情報をもらい、さっそうと出向きました。10時頃、赤岩近くの海で漂っている3匹を見ることができました。かなり小さいですが黒と白のコントラストがかなり目立つので、一度見れば全身黒のケイマフリと区別がつきます。最初はわかりにくいかもしれませんが、天売に来られるときはこのビデオを参考にして下さい。展望台で粘ればもしかしたら見ることができるかも知れません。
 普段100メートル近くも潜って魚を獲るといわれる鳥からすれば、超浅い沿岸の海ですがこの時期は巣の近くでもエサが獲れるのでしょうね。鳥にしてみればいつでも巣に帰れる距離だと、楽だし安心でしょうけど。前から気になっていたのですが、そんなに潜れる海鳥はきっと潜水病や水圧に負けない体なのでしょうね。やっぱり、遠くに行きたくなったのか、突如1匹が飛び立ちます。


photo3.jpg<写真3> 巣立ち映像 (海鳥センターリンク)
 オロロン鳥の雛は8月初旬あたりに巣立ちます。高い崖の上にずっとこもって親からエサをもらい、守ってもらっている毎日だったので、巣立ちの時は飛ぶのも初めて、泳ぐのも初めて、潜るのもはじめてという状態なのです。親は雛を急かさず意を決するのを優しく待ちます。怖いのか雛は崖っぷちで、ためらってためらってやっと意を決して飛び立ちますが、うまく飛べず殆ど真下に落下します。ただ、体が柔らかいのと、バタバタして落ちるためめったにケガはしません。すぐ海に入ると親もすぐ追いかけてきて一緒に天売島を後にし、遠くに泳ぎ去っていきます。たいがい父鳥が子どもの航海に連れ添い、母鳥は数日後合流するようです。
 今年は残念ながらオロロン鳥のハイスピード飛翔撮影を撮ることができませんでした。50年住んでいる地元の人から「私雛も見たことないから良かったじゃない」と言われちょっと慰められましたが、いつか撮影し多くの皆さんにお見せできるといいのですが・・・。寿命が20年位らしいので、今年天売に来たオロロン鳥は今後も全て天売に戻って来て欲しいです。


 天売に常住している環境省職員の方々は、鳥の繁殖時期以外は羽幌町にある北海道海鳥センターというところで研究活動をしておられます。センターのHPに先月このコラムをリンクして頂きました。こちらからもリンクさせて頂きます。今年は長年の保護活動の努力が実り、ウミガラスは数年ぶりに繁殖に成功しましたので、実はセンター所有のウミガラスの映像は豊富です(この巣立ちの写真も海鳥センターの方から提供していただきました)。巣立ちの映像は本当に、子を思う親の気持ちは鳥も人も同じなのだと感動します。是非クリックしてご覧になってみて下さい。
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