ようこそケイマフリ of 北海道天売高等学校

北海道天売高等学校 定時制普通科

第5話 ようこそ!ケイマフリ

 ケイマフリという鳥は天売に来るまで知りませんでした。天売に来ても人の生活圏にいるような鳥ではありません。西海岸の特別保護区、あの大自然の中にいますので、普段は見ることがありません。ケイマフリ、何語なんだろうと思ったらアイヌ語起源なんです。ということは昔から北海道近辺にいた鳥なのでしょうが、北海道生まれでも知らなかったのだから、珍しい鳥なんでしょうね。そう、今は世界的にも数を減らしオロロン鳥より絶滅が危惧される、とっても貴重な鳥なんです。

 自然なものには心があらわれます。小中学校の合同文化祭も無事終了。天売高校教員は将来の生徒になってくれるかもしれない子ども達を応援するために、毎年ワクワクしながら小中学校に出向きます。天売の子は少人数なので、いつも出番が多い。行事で写真撮られるときも、アップになることが多いですね。純粋無垢、カメラをあまり意識せず、いつも期待通りいい表情をしてくれます。笑顔がどんなに周りの人達を元気付けているか、本人達はわかっているのでしょうか。大人達も子供達のことをとても褒めます。「あいつはいいやつだ」と。大の大人が子どもに「いいやつだ」というのは、知識や経験で共感したということとは異なりますね。それ以上に、表情の輝きに救われます。いつもありがとう天売の子たち!

 昨年までは観光船がありました。あの奇岩がそびえる西海岸で・・・エサを採る、集団で戯れる、鳴いて仲間を呼ぶ、はばたいて飛ぶ・・・その姿を見ているだけで、なんともスーッと心があらわれました。こちらのことはちょっと胡散臭いくらいで、ほとんど意識してないでしょう。でも、君の存在、そのものに惹かれます。

<映像1> ようこそ前浜へ!〜1匹のケイマフリとの出会い(通常撮影)

 観光船がなくなって残念、もっと乗っていれば良かったです。2年目にしてやっと観光船に乗り、西海岸でもそれほど見ることができない、ケイマフリの集団を見て、なんとも言えない感動を覚えました。景色も鳥の様子もそれまで見たこともない光景でした。

 今年から観光船は採算が取れず、休業状態。現在あそこに行くには、好意で船を出してくれる人に頼むしかありません。金銭的には観光船より高いお金がかかってしまいますが、それより本業ではないのでおいそれとは頼めません。ちょっと残念な3年目を迎えました。ケイマフリのビデオが撮れないまま、天売の生活も終わってしまうのかあと無念でした。

 6月、前浜の港にもカレイが釣れ始めました。天売だと釣り三昧なのだろうと思っている人がいますが、ガヤとソイは沢山いるけど飽きちゃうし、それ以外の魚は意外と貴重でめったに釣れる機会がありません。さあ、今年の初物をと、意気込んだ矢先!!なっ!なんでケイマフリが目の前の釣り場にいるの!?足が愕然として釣りどころではなく、カメラを取りに車に戻りましたが、幸い彼?彼女?は戻ってもずっと同じところにいてくれました。それどころか3m位手前まで近寄ってもこんな感じだったのです。

<映像2> ようこそ前浜へ!2〜一生懸命な毛づくろい(120fps)

 西海岸では船が近寄っただけで鳥達はさーっと逃げていきます。ケイマフリの集団の写真を撮れただけでも、今日は比較的珍しいと観光船のガイドの人が話してました。突如現れたケイマフリはあまりに近寄っても逃げないので、私は完全にケガをして逃げることができないのだと思い、捕獲して手当をしてもらおうと海鳥センターの人を呼びに行きました。元の場所に戻っても案の定ケイマフリがまだいたので、私の自宅から持ってきたタモを海鳥センターの人に渡し捕獲作戦開始。この時捕獲シーンを撮るつもりはなかったので、カメラは回してませんでした。ところが、あんなに逃げなかったのに、タモ持って近寄った途端ケイマフリはパタパタパタ・・・。なんだ、健康体だったのか!それは良かったけど・・・絶好の飛翔シーンを逃した・・・ガッカリ。

 次の日ナイスショットを逃した心の傷を癒すため、未練がましくまた前浜に。「ああ、ここにまたケイマフリ君がいてくれたら・・・なんてね」なんてねっ・・・て、ちょっと、そこで毛づくろいしてるの、もしかして昨日のあなた?


<映像3> 前浜でのエサとり1(通常撮影)

 なんとそのケイマフリはその時期完全に前浜に住みついていたのです。港のちょっと外側や中でもエサとりでチャポンチャポンしています。後で小中学校のPTA会長さんにその話をしたら、「ああ、あれは5月くらいからいましたね」・・・「あっ、あそうですか」

 人里から程遠い西海岸での様子しか見たことがなかったので、まさか前浜にしかも単独でケイマフリがいるなんて夢にも思っていませんでした。丁度その時期前浜の港の先端は、カモメやウミウなど沢山の鳥が群れてエサをとり賑わっていました。単独なのでここで雛を育てることはないでしょうし、まだ家族を養う前にエサが手軽に手に入るこの時期この場所で、とりあえず自分が食べる分を補給しておこうと思ったのかも知れません。観光船がなくても毎年この時期、天売高校のすぐ脇にある前浜の先端に行けばケイマフリに会えるかもしれませんよ。


<映像4> 前浜でのエサとり2(120fps)

 「ケイマフリ」とはアイヌ語で「赤い足」という意味で、その名の通りに鮮やかな赤橙色の足を持っている体長約40cmほどの海鳥です。夏羽は全体が黒色で目の周りが白く、冬羽は下面が白色。サハリン(樺太)・千島列島・日本北部などオホーツク海沿岸に分布しています。

 天売では夏鳥として飛来し繁殖。繁殖地は断崖などの岩と岩の隙間で、赤岩周辺や千鳥ケ浦一帯に多くが生息します。3月に天売島沿岸に飛来し、8月中旬までに島を去る。1963年に3000羽記録されていたものが、1985年には500羽と推定され、その減少が心配されています。ウミガラスと比べて世界的な分布域が狭くて個体数も少ないことから、種のレベルから言うとケイマフリの方が危機度が高いといえます。こんなに貴重で数が少なくなってしまった鳥ですが、それでも天売鳥が一番の個体数を有し、ケイマフリにとって貴重な楽園になっています。


<映像5> 赤岩公園だって見れますよ(通常撮影)

 3年目まで全く知らなかったのですが、ケイマフリは赤岩公園でも見ることができたのですね。いつでも必ず見られるというわけではないですが。展望台は何度か行っているにもかかわらず、いつも景色を見てすぐ終わりだったので、気づかなかったです。赤岩公園の展望台は周りが岩場です。ケイマフリは岩場と岩場の隙間を繁殖場所とします。カモメの数が多いので、カモメの巣しかないのかと思っていたら、合間にケイマフリの巣もあったのです。ただし、雛がいる時期にエサ運びのため、海と巣の間を行ったり来たりしますので、海に行っているときは見ることができません。いないなあと思ってもちょっと待ってば、運良く飛んで帰ってくるかもしれません。このビデオは昼間、展望台正面のほんの目の前の岩場で撮ることができました。近くに人が4人くらいいたので、声は警戒音だそうです。特別保護区では前浜と比べ警戒心が全然違いますね。


<映像6> 1年ぶりに西海岸(特別保護区)へ(120fps)

 西海岸は特別保護区で船でしか行けません。前浜で飛翔シーンのゲットに失敗したので、あそこにいるケイマフリをもう一度見てみたいなあと思っていました。すると地元の写真家がボートウォッチングを企画していることを知り、8月初旬に船に便乗させてもらい、1年ぶりに西海岸に向かいました。前浜と異なり警戒心が段違いに強いのと、揺れる船からのビデオ撮影は本当に大変。でも行った甲斐があり、美しい景色の中でケイマフリが活動する様子を収めることができました。ここにある風景は天売の真髄です、じっくりご堪能下さい。

<映像7> 走る!ケイマフリ(240fps)

 赤岩の展望台からは、とても小さいですが沢山のケイマフリが点々と海に浮かんでいる様子を見ることができます。時々パーッと飛び立ったとき水しぶきが立つのですが、それをいつも見ていて自分はてっきり、それははばたいた時に羽が水を叩いてできるものだと思っていました。しかし、後でビデオをみて分かったのですが、実はそれはケイマフリが飛び立つときに足で水を蹴るためにできるものだったのです。まず羽をパタパタはばたかせて体を浮力で軽くしておいてから、羽は水につけずに水面の上を蹴ってけって、走ってはしってやがて離水する。そう、水しぶきはケイマフリの「足あと」なのです!

 ケイマフリの詳しい調査はここ数年で始まったばかりです。今後、オロロン鳥同様、かつての天売島のように再び勢いよく繁栄する姿を見せてもらいたいものです。